吉野 弘さんの詩集

いい詩集にであった。

きっかけは、郵便局に飾ってあった額をみたこと。

ほっくりする水彩画とともに、味わい深い字で描かれていた吉野弘さんの詩。

ご近所のアマチュアの方の作らしいけど素敵だった。

早速、吉野弘さんの詩集を探してみた。

以下、琴線にふれた詩をいくつか。。。



『自分自身に』


他人を励ますことはできても

自分を励ますことは難しい

だから・・・というべきか

しかし・・・というべきか

自分がまだひらく花だと

思える間はそう思うがいい

すこしの気恥ずかしさに耐え

すこしの無理をしてでも

淡い賑やかさのなかに

自分をあそばせておくがいい



京都 嵐山(2012/9/1)




『短日』


葉を落とした大銀杏の
休暇の取り方

どこかへあわてて旅立ったりしない
同じ場所での静かな休息

自分から逃げ出したりしないで
自分に同意している育ちの良さ

裸でいても
悪びれず

風のある日は
風を着膨れています


京都 三十三間堂にて(2012/9/2)



祝婚歌


二人が睦まじくいるためには
愚かでいる方がいい
立派すぎないほうがいい
立派すぎることは
長持ちしないことだと
気づいているほうがいい
完璧をめざさないほうがいい
完璧なんて不自然なことだと
うそぶいているほうがいい
二人のうちどちらかが
ふざけているほうがいい
ずっこけているほうがいい
互いに非難することがあっても
非難できる資格が自分にあったかどうか
あとで
疑わしくなるほうがいい
正しいことを言うときは
少しひかえめにするほうがいい
正しいことを言うときは
相手を傷つけやすいものだと
気づいているほうがいい
立派でありたいとか
正しくありたいとかいいう
無駄な緊張には色目を使わず
ゆったり ゆたかに
光を浴びているほうがいい
健康で 風に吹かれながら
生きていることのなつかしさに
ふと 
胸が熱くなる
そんな日があってもいい
そして
なぜ胸が熱くなるのか
黙っていてもふたりには
わかるのであってほしい。


京都 保津川